前回ご紹介したマッキントッシュのコートと並ぶ人気なのが、バブアーに代表される「オイルドコート」。
バブアーなどのオイルドジャケット・コートは、特にファッションにこだわる人々の人気が高く、あのしっとりとした手触り感や、光沢のある独特の風格がたまらないというファンもかなりいます。
そんな、服を愛する人達に根強いファンが多いオイルドコートですが、マッキントッシュと共に『洗えない問題』があります。
難しいお手入れに根をあげて手放してしまうことも多いようで、クレアンでも年々依頼が増えている特殊衣類です。
そこで今回は、そんなワックス(オイルド)コットン素材のジャケットの人気ブランドについて、また、せっかくの上質なコートを長く愛用できるように、いつものお手入れや実際のクリーニングとリプルーフ加工(再オイルド加工)の工程についてもご紹介します。
このページの目次
オイルドジャケットのメリット・デメリット
オイルドジャケットは生地の表面にワックスを塗ってあるので、ワックスジャケットとも呼ばれています。
オイルを塗りつける加工によるしっとり感は、オイルドジャケット独特の質感をかもしだす魅力の一つです。
もともと雨の多いイギリスで、作業着として開発されたため、とても機能的なつくりになっています。
生地はコットンなので軽く、また表面の油で防水、防寒、耐久性に優れています。
しかしそのオイルコーティングが、着用するにもお手入れするにもとても面倒なことを引き起こしてしまいます。
表面が、触れば手が少しベタついた感じがして、裏地にもその油が滲んでいることがあり、
オイルドコートの下に吸水性のあるインナーを着ると油が移ってくることがあります。
街中での着用は他の人の衣類や公共の乗り物の座席などを汚してしまう心配もあるため、脱いで表面を内側にしておくのがマナーです。
また、オイル(ソーンプルーフドレッシング)の臭いについても
「エレベーターに乗った時に感じるモーターのオイルのような、かなり嫌な臭いがする」といわれる方もいます。
電車に乗ったりすれば匂いが気になる方もいることでしょう。
最近バブアーでははオイルを変えて、比較的臭いの少ないオイルを使用しているようです。
英国王室が長年愛用、最高峰ブランドBarbour(バブアー)
Barbour(バブアー)は1894年、ジョン・バブアーによりイングランド北東部のサウスシールズで創業されました。
バーブアやバーブァーと発音する人もいます。
エリザベス2世女王とその夫のフィリップ (エディンバラ公)、そしてチャールズ皇太子3人全ての英国王室御用達ロイヤルワラントを冠する、僅か10件前後という希少なブランドです。
英国のアウトドア・ライフスタイルを体現するブランドであるバブアーは、北海の不順な天候の元で働く水夫や漁師、港湾労働者のために、オイルドクロスを提供したのが始まりでした。
その革新的なオイルドクロス製の防水ジャケットは耐久性が高く、瞬く間に人気となり、第一次、第二次世界大戦中には、防水服を英国軍に供給していたほど、その高い機能性はお墨付きです。
1936年には、オイルドコットン製のライダース ジャケット、“インターナショナル ジャケット”を発表し、名だたる多くのレーサーが着用し、ライダース ジャケットの代名詞となりました。
こうして真摯なものづくりとその品質が認められ、英国を代表するアウトドア・ライフスタイルブランドとなりました。
防水に用いるオイルは様々な変遷をたどっており、悪臭を発するものや着心地が悪いもの、環境に悪いものなども採用されていましたが、現在はそれらの問題を解決した最高級のエジプト木綿とビーコンオイルを使用し、完全な防水性と通気性を両立した「ソーンプルーフ」と呼ばれる素材を使っています。
最近はアウトドアウェアとしてだけでなく、ファッションとしてこだわりのある人々にも愛用されており、本場イギリスではスーツに羽織ったりする姿も見かけられ、タフながらも品のある上質なアウターとして定着しています。
ライダー向けスタイリッシュなBELSTAFF(ベルスタッフ)
BELSTAFF(ベルスタッフ)は1924年にイギリスで設立され、ライダーたちを意識したメンズ&ウィメンズの防水衣料の生産を始めました。
その後、モータースポーツや航空、そして冒険に深くかかわりを持つことになります。
1940年代にエジプト産ワックスコットンを素材とした、通気性と防水性に優れた衣料を製造。
この耐久性に優れたスタイリッシュなデザインのライダースジャケットはデヴィッドベッカムをはじめ、バイクで南米大陸を旅したチェ・ゲバラやスティーブ・マックイーンも愛用していたことでも知られています。
また、大作映画ではベルスタッフを纏ったブラット・ピットやトム・クルーズなどが劇中に登場しました。
4隅に配置されたパッチポケットや、シルエットに変化を与えるウエストベルトなどは、ベルスタッフの代表的なデザインの特徴のひとつです。
ヴィンテージものでは、歴代のオーナーによってセンス良くワッペンでカスタムされたり補修された他にはないものが見つかったりと、洋服好きの人にはたまらない貴重な1着です。
男臭い、こだわりの最上アウトドアウェアFILSON(フィルソン)
FILSON(フィルソン)は1897年、アメリカのシアトルでゴールドラッシュに挑むための”アウトドア・クロージング・メーカー”として設立されました。
金の採掘という、衣類にとっては劣悪きわまりない環境で酷使されるために、最上の天然素材と一切の妥協のない設計・縫製でウェアの生産を開始し、やがてアラスカや北西部で働く男たちにとって、FILSONのマークは信頼と同義語であるとまで言われるようになりました。
「どうせ持つならいいものを、最上のものを」という、創業者 Clinton C. Filsonのコンセプト通り、ウールにおいては、原毛を刈り取ってから製品に仕上げるまで、いまだに2年以上の歳月をかける頑固さで取り組み、その頑固さゆえに、アメリカの森林警備隊、木こり、ハンター、そして冒険家など厳しい自然環境の中で真のクオリティを必要とする人々に愛され続け、アメリカ空軍・陸軍のスタッフ用としても一部使用されています。
「親から子へ、子から孫へ」と着継がれるというエビソードがいくつもあるほど、優れた品質と耐久性を誇っています。
フィルソンは、上質コットンだけを丹念に織り込むことで耐久性・撥水性を高め、シミ抑制処理を施して雨や風、摩擦に対して極めて強い生地に仕上げています。
一番厚みのあるティンクロス、次にシェルタークロス、カバークロスの3種類があり、これをパラフィンベースのワックスに浸し、撥水・防風性を高めたものが「オイルフィニッシュ」で、いわゆるワックスコットン素材のものになります。また、生の綿の風合いを残したものが「ドライフィニッシュ」と呼ばれています。
オイルドコートのお手入れ
オイルドコットン素材は洗濯表示がすべて×、ドライクリーニングも水洗いも出来ないとされているので、ご家庭ではこまめに着用後のお手入れや最適な頻度でリプルーフを行い大切に扱いましょう。特に高温多湿の日本では、湿気に要注意です!
- 着用後は、必ず風通しのよい日陰にしばらく吊るし、よく乾燥させます。
雨に濡れた場合や、汗などの水分をよく乾かすことで、匂いやカビ予防になります。
- 汚れやほこりが気になる場合は、まず、ブラシを使ってやさしく払い落とします。それでも落ちなかった汚れには、水を含ませ固く絞ったたスポンジで表面を軽く拭き取り、その後、陰干しでよく乾かします。また、ブラシにはオイルが付くので、ブラッシングで使ったブラシはオイルドコート専用として使用しましょう。
- 襟元にコーデュロイやスウェードなどの別素材を使ってある場合は、その部分も丁寧にブラッシングすると美しさが保てます。ただし、特に柔らかい素材は傷つけない様に適切なブラシを使います。
- 表面のオイル(油)がとれてしまう、お湯での拭き取りや、ドライヤーでの乾燥は厳禁なのでご注意を!
- クローゼットに保管する場合は、他の衣類に匂いや汚れがつく可能性があるので、通気性のある布製のカバー(クロスカバー)をかけてからしまいます。ただし、長期間しまいっ放しにすると、カビが発生することがあるため、時々風通しの良い場所で陰干しして乾燥させてください。
- リプルーフを自宅で行う場合は、年に1回程度、お持ちのオイルドコートブランドの専用オイルを使って行うことをおすすめします。リプルーフ作業でオイルを塗りなおすことで強度が増し、オイルドコート本来の防水性や美しさの回復の他、カビ予防にもなります。
オイルドコートの難点「洗えない問題」
ジャケット表面の油が薄くなって来ると、それに油を上塗りし、やがて黒光りしてある種の“風格”が出てきます。
ですが、汚れがついたままですから、匂いも気になったり、清潔好きな日本人にとっては洗ってすっきりしたくもなります。
しかし、「洗濯表示はすべて×」で、洗ったりお湯で拭いても防水オイルがとれてしまうため、通常は洗うことができません。
ドライクリーニングも出来ないとされているため、クリーニング店に持って行っても断られることがほとんどです。
オイルドコートの特殊クリーニング
クリーニングに出す時に気になること
色や風合いが、どの程度どの様に変化する可能性があるか、また、独特の匂いやべたべたした表面のオイルを抜きたいなど、クリーニングでどの程度対応できるのかは気になるところだと思います。詳しくは、下記ページをご確認ください。
クリーニング検討の際の留意点✳︎詳しくはこちら
オイルドコート・ジャケットの洗い方
クレアンでオイルドコートのクリーニングを承る際、まず、大きく分けて
「オイル抜き」クリーニング、「オイルを抜かずに」行うクリーニングがあります。
ご注文いただいたジャケットは全て、熟練の職人が1点ずつ状態やご希望に合わせて必要な手間と時間をかけ手仕事で作業します。
「オイル抜き」クリーニング
独特の強い臭いをとりたい、ベタベタした感じをなんとかしたい場合は、ドライクリーニングを行います。
表面の汚れ、コーティングされたオイルを落とします。
仕上がりは、さらのコットン地のような感じになり、しっとり感はなくなります。
ご希望により、クリーニング後のリプルーフ(オイル再加工)作業も行います。
「オイルを抜かずに」クリーニング
風合いはそのままで、汚れだけ落としたい場合は、水洗いクリーニングを行います。
生地表面を、天然石鹸の溶剤を使ってブラッシング、水洗いします。
クリーニング後にも元々のオイルは残っていますが、防水性の回復や美しい仕上がりのためにリプルーフ加工をおすすめします。
オイルドコートのクリーニング✳︎詳しくはこちら
クリーニング検討の際の留意点✳︎詳しくはこちら
オイルドコートのリプルーフ作業
オイルドコート独特の“しっとり感”を出すには、クリーニング後のリプルーフ(オイル再加工)が欠かせません。
もちろん、本来の目的である防水性も回復します。
リプルーフは技術と時間を要する、特別な工程です。
クレアンでは、植物性と動物性オイルを特別に調合したオイルを使用します。
2つを調合すると、粘着性や安定性が増し、オイルの定着も良く、匂いも良くなります。
石油系のオイルは環境や肌にも強すぎてしまい、酸化した時も独特の臭いが強くなります。
この特別に調合したオイルを薄く塗っては乾燥させて、また薄く塗る作業の繰り返しです。
オイルドコートのリプルーフ✳︎詳しくはこちら
ゆっくりと自然乾燥
オイルドコートはリプルーフ後、オイルを定着させるため自然乾燥させます。
オイルを定着させるため、乾燥作業に多くの時間を要します。
最適なクリーニング頻度
オイルが繊維を守る役割を果たしているため、数年に1度のメンテナンスで十分です。
ただ、汚れが気になる際はお早めのクリーニングをおすすめします。
特別な1着になっていく
エリザベス女王に、バブアーが最新モデルの新品のジャケットを献上したところ、「自分の(長く愛用している)ものがいい」と、袖を通さなかったといいます。
それほど、着るごとに愛着も風格も増していくオイルドジャケット。
一生モノとして大切に、クリーニングやリプルーフで定期的にメンテナンスはしていても、長く着ていくうちに袖や裾などがほつれてきてしまいます。
そんな時も、修繕やリメイクなど、クレアンではご相談を承っております。
長く付き合える「いいもの」は、使うほどにくたびれ感も美しく磨きがかかり、メンテナンスや修繕を重ねるうちに、自分にとって特別な1着になっていきます。